「佑神奇譚」制作に使用した参考資料の中から、分野別にオススメの文献を紹介をしたいと思います。
○神道編
「神道事典」(1991年)……國學院大學日本文化研究所編、弘文堂
・神道初学者向けの辞典で、歴史、制度、建築物、祭り、神話といった基本的な項目を一通り網羅しています。図表も豊富で、説明文も平易で読みやすい。肩の力を抜いてお勉強できる本です。
・特にオススメな点は、「さらに知りたい人のために」という形で、専門的な文献の紹介がされていることです。もう少し詳しい資料はないかと思ったときに大変便利なのです。
・趣味で神道を勉強したかったら、これを読んでおけば十分では? というのが個人的な感想です。
○江戸の生活編
「百姓たちの江戸時代」(2009年)……渡辺尚志著、ちくまプリマー新書
・江戸時代に生きた普通の人達の生活を具体的に述べよう、というのが本書のテーマです。百姓と書かれていますが、農民の生活が紹介されています。商人や職人は言及されません。
・農民達はお金を何に使ったのか、という貨幣経済のお話に始まり、家族構成、食事、ファッション、信仰、娯楽、子供の教育、農作業などの項目があります。一般的な読者向けの読みやすい本です。
・個人的にオススメな点は、農民達が何を買っていたか何を作っていたかが事細かく紹介されていることです。ぼんやりとしていた江戸時代の生活がより具体的に想像できると思います。
「女性のいる近世」(1995年)……大口勇次郎著、勁草書房
・江戸時代後半の女性の生活に焦点を当てた本です。女性史と呼ばれる分野ですが、近代以前は女性の活躍や生活というのはなかなか表に出てきません。そもそも、江戸時代は一般人が現代のような日記を付けたり、エッセイやブログを残すような文化がなかった。というのも大きな原因ではありますが。
・この本では、江戸時代当時の家計簿のような資料や、宗門人別帳などの資料を読み解いて、女性が生活の中でどの様な役割を担ったかを解説しています。
・項目は、女性相続人、農村における労働(奉公など)、金融活動をやっていた女性の記録、大奥に勤めた女性の記録、医者の家に生まれた女性の一生の記録、となっています。
・ジェンダー論に傾する印象もあり、気楽に読むという感じではありませんが、紹介されている資料はとても興味深いものです。
「近世風俗志」(1997年)……喜田川守貞著・宇佐美英機校訂、岩波文庫
・江戸時代後期の一商人である守貞さんは、オラも何か後世に残したい! と思い立って書いたのが、かの有名な「守貞謾稿」です。それを図版などは極力そのままに、現代人に読みやすい様に活字化したのが本書。
・全5巻。個人的には一番のおすすめ。ただし、分野によっては学問的な正確性を求めない方が良いかもしれない。
・当時の風俗を様々な項目毎にまとめています。服だけでも女服、男服、笠、簪、履き物……って感じに非常に細かく、守貞さん直筆のイラストも魅力です。ファッションだけで一巻分あります。その他の項目は、貨幣、職業(酒屋から饅頭売りまで)、お風呂、遊戯、芸能、節々のお祝い事などなど、実生活に関わる風俗が目白押しです。資料的特徴としては、江戸、大坂、京都の生活を比較している点であり、他に類を見ないものです。
・江戸時代好きなら必携の本では? と言うくらい、私が一番気に入った本です。
番外編
○江戸中期~幕末の宗教・政治編(水戸学)
「水戸學派の尊皇および經論」(1937年)……高須芳次郎、雄山閣
・江戸時代中期、徳川光圀によって「大日本史」の編纂事業が始められたことを契機に、神道は学問的に発展することになります。これらは水戸学と呼ばれ、神道にとどまらず非常に幅広い学問体系を持っていました。水戸学の思想は、幕末の尊皇攘夷運動の理論的主柱となり、明治新政府の政策にも多大な影響を与える事となります。
・現在では尊皇思想と聞くと、なんか危ない人達のこと?って印象が強いですが、神道史を勉強する上では避けては通れない道でもあります。
・この分野、一般向けの資料がとても少ないのですが、初心者向けの解説本はさらに少なく、よくまとまっていると思われるのはこの本くらいでは? 戦中の本なので、古本屋で入手しましょう。
・出典豊富、漢文めちゃくちゃ豊富、漢和辞典必須、神話・儒教・教育・政治・歴史解釈・西洋學との対比やら、言及範囲はとても広いです。これ一冊読めば(読めれば)、もう漢文読解は怖い物なしです。(あれ?)
○その他の参考資料
・某地域史研究会研究報告(1~36巻)
地域名は内緒です!
・神社明細帳
国文学資料館等に保管されています。明治初期に政府によって作られた神社の履歴書です。 ここで由来不明となっていた中小神社の多くが、現代では大層な来歴を喧伝していたりするので面白いです。(皮肉)
神社の歴史調べは、まずはこの資料から始めるのが良いと思います。
・明治神社誌料
正式名称『府県郷社明治神社誌料』。明治末期時点での日本全国の府県社・郷社のデータ集です。各都道府県別にまとめられているのが特徴。全3巻です。
国立国会図書館デジタルコレクションで見ることができます。気になる神社があれば、探してみるのも面白いかもしれません。